大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

神戸地方裁判所 昭和47年(行ウ)15号 判決 1973年10月01日

神戸市長田区庄田町四丁目一一番地

原告

三和実業振興有限会社

右代表者代表取締役

川合治良

右訴訟代理人弁護士

土井平一

神戸市長田区大道通一丁目三七番地

被告

長田税務署長

板清次

右指定代理人検事

竹原俊一

法務事務官 河口進

同 前垣恒夫

大蔵事務官 江里口隆司

同 馬場倫男

同 山本喜文

右当時者間の更正処分取消請求事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

(原告)

「被告が原告に対し昭和四五年六月二九日付でした昭和四三年十一月一日から昭和四四年一〇月三一日までの事業年度の法人税について所得金額を一、九八九、四六七円とする更正を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」

との判決

(被告)

主文と同旨の判決

第二当事者の主張

(請求の原因)

一  原告は日用雑貨の仕入販売業者兼貸室業者であるが、昭和四三年一一月一日から昭和四四年一〇月三一日までの事業年度(以下、本件年度という)の法人税について所得金額を零とする 確定青色申告をしたところ、被告が昭和四五年六月二九日付で所得金額を一、九八九、四六七円とする更正(以下、本件更正という)をしたので、同年八月二七日被告に対し異議申立をしたが、昭和四六年一一月二六日棄却さた、一方、昭和四五年一二月二五日国税不服審判所長に対し審査請求をしたが、昭和四七年二月一六日棄却の裁決書を受領した。

二  しかしながら、本件更正は次の理由により違法である。

すなわち、神戸市垂水区東垂水町字南平尾一五九四番の一の宅地一一五・八六m2(三五・〇五坪、以下、本件土地という)は原告の、本件土地上のトタン萱平家建建物床面積約六六・一一m2(二〇・〇〇坪)は訴外川合治良(以下、川合という)の各所有であるところ、昭和四四年六月二六日本件土地は九五〇、〇〇〇円、右建物は一、五五〇、〇〇〇円と評価して、訴外橋本富蔵(以下、橋本という)に売却されたものであるから、本件更正は事実を誤認しているものである。

三  そこで、原告は被告に対し本件更正の取消を求める。

(請求の原因に対する答弁)

請求の原因一の事実は認める。

同二の事実は争う。

(被告の主張)

一  被告は昭和四五年六月九日調査したところ、次のとおり所得金額に加算すべきことが判明したので、本件更正をしたものである。

(一) 土地売却益除外額 一、六五〇、〇〇〇円

原告は昭和四四年六月二六日橋本に対し本件土地を二、六〇〇、〇〇〇円で譲渡しながら、譲渡価額を一、六五〇、〇〇〇円圧縮した九五〇、〇〇〇円として申告していることが明らかとなつたので、右圧縮金額を売却益除外額として所得金額に加算した。

(二) 建物取得価額 一一一、五〇〇円

原告は本件年度中に取得した神戸市長田区駒ケ林町三丁目七九番地の家屋について、昭和四四年八月二九日に太陽不動産(松井弘)に対して支払つた購入手数料一〇〇、〇〇〇円及び同年一〇月七日大江測量に対して支払つた測量費一一、五〇〇円合計一一一、五〇〇円を経費として計上していたが、右金額は法人税法施行令第五四条により建物の取得価額とみるべきものであるから、右経費計上を否認し所得金額に加算した。

(三) 繰越欠損金否認額 二二七、九六七円

原告は法人税法第五七条の規定により繰越欠損金二二七、九六七円を控除して確定申告書を提出していたが、本件年度以降の事業年度について青色申告書提出の承認を取消したことに伴い、右繰越欠損金を所得金額に加算した。

以上合計 一、九八九、四六七円

二  本件土地は昭和三四年頃から雑草が生い茂り、人手が加えられないまま放置され、本件土地上には以前大工小屋程度の極く小さなパラツクが建つていたところ、右建物は電気・瓦斯・水道等の設備がなく、また、登記簿及び固定資産課税台帳に登載されていない所有者も定かでないものであつたが、やがて雑草に埋まり台風等により壊され、昭和四四年六月二六日当時荒廃して経済的に無価値のものであつた。

(被告の主張に対する原告の答弁)

被告の主張一(一)の事実のうち、原告が本件土地の譲渡価額を九五〇、〇〇〇円として申告したことは認めるが、その余の事実は争う。。

同一(二)(三)の事実及び主張は認める。

同二の事実は争う。

第三証拠

(原告)

1  甲第一ないし第九号証、第一〇号証の一ないし四、第一一ないし第一四号証。

2  証人戸田基明、同高垣末吉、同磯部清一、原告代表者。

3  乙第四ないし第八号証、第九号証の一、二、第一一第一二号証の成立は認める、その余の乙号各証の成立は知らない。

(被告)

1 乙第一ないし第八号証、第九号証の一、二、第一〇ないし第一五号証。

2 証人田辺翠。

3 甲第一ないし第三号証、第九第一一第一四号証の成立は認める、その余の甲号各証の成立は知らない。

理由

一  原告が日用雑貨の仕入販売業者兼貸室業者であつて、本件年度の法人税について所得金額を零とする確定青色申告をしたところ、被告が昭和四五年六月二九日付で所得金額を一、九八九、四六七円とする本件更正をしたので、同年八月二七日被告に対し異議申立をしたが、昭和四六年一一月二六日棄却され、一方、昭和四五年一二月二五日国税不服審判所長に対し審査請求をしたが、昭和四七年二月一六日棄却の裁決書を受領したことは当事者間に争いがない。

二  そこで、被告主張の所得金額の各加算が相当であるかどうかの点について判断する。

(一)  成立に争いのない甲第九第一四号証、乙第四第五第八号証、証人田辺翠の証言、原告代表者の供述(一部)並びに弁論の全趣旨によると、

(1)  原告は昭和三八年一月二九日その代表取締役・川合の個人事業を承継して設立されたものであるが、川合は設立後の原告の営業準備行為として昭和三七年一二月二五日訴外岡田興業有限会社より本件土地を代金六三〇、〇〇〇円で買受け、原告は昭和三八年三月二九日本件土地について同月二八日売買を原因とする所有権移転登記を経由し、昭和四四年六月二六日橋本に対し本件土地を代金契約証書面上九五〇、〇〇〇円として売渡し、同年七月二日本件土地について同月一日売買を原因とする所有権移転登記を経由した。

(2)  原告代表者は昭和四五年六月九日被告係官の調査を受けた際、被告に対し「垂水の土地(橋本富蔵氏分)は約二六〇万か二七〇万で売りました。」と記載し署名押印した確認書(乙第四号証)を差入れた。

(3)  原告代表者管理中の銀行帳(第一銀行長田支店普通預金川合美治代((川合の長女)名義口座)には「昭和四四年六月二七日垂水土地売り代金二六〇万の内入り二六〇、〇〇〇円」「昭和四四年七月一日垂水土地売り残り入る二、三三三、五〇〇円」の各預入れの記載がある。

(4)  昭和四四年六月当時本件土地付近の宅地の時価は坪当り八五、〇〇〇円を下らなかつた。との事実が認められ、原告代表者の供述のうち、右認定に副わない部分並びに右認定に反する証人戸田基明、同高垣末吉の各証言は採用することができず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

右認定の事実によると、本件土地の譲渡価額は二、六〇〇、〇〇〇円であると認めるのが相当である。

もつとも、乙第六号証(昭和三七年一二月二五日付売主・訴外岡田興業有限会社と買主・原告との間の不動産売買契約証書)には、不動産の表示として、本件土地の次に、「土地上木造トタン葺平家一棟二〇坪未登記分金四二万円也は川合治良殿と契約をする」との記載があり、また、乙第七号証(昭和四四年六月二六日付売主・代原告と買主・橋本との間の不動産売買契約証書)には、「売主は本件土地上建物未登記木造平家トタン葺坪数約二〇坪余を代金一五五万円で買主に売渡した」旨の記載があるけれども、一方、原告代表者の供述によると、乙第六号証のうちの右記載は後日挿入されたものであり、また、乙第七号証は乙第八号証(昭和四四年六月二六日付売主・原告と買主・橋本との間の本件土地の不動産売買契約証書)の作成日後に作成されたものであることが認められるのみならず、第三者の作成にかかり弁論の全趣旨によつて真正に成立したものと認められる乙第一ないし第三号証、官署作成部分はその方式及び趣旨によつて公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべく、その余の部分は第三者の作成にかかり弁論の全趣旨によつて真正に成立したものと認められる乙第一三ないし第一五号証、原告代表者の供述(一部)並びに弁論の全趣旨によると、本件土地は昭和三五年頃から雑草が生い茂り、本件土地上には床面積約六坪のトタン葺平家建バラツクが存在していたが、右建物は、未登記・未登録のもので、もと、飯場に使用され、電気・瓦斯・水道等の設備がなく、畳もなく、人手が加えられないまま放置されたので、昭和四〇年頃荒廃していたことが認められるから、乙第六号証のうちの前記々載及び同第七号証の記載は前段認定の妨げとはならない。

そして、原告が本件土地の譲渡価額を九五〇、〇〇〇円として申告したことは当事者間に争いがないから、二、六〇〇、〇〇〇円との差額一、六五〇、〇〇〇円は売却益除外額として所得金額に加算するのが相当である。

(二)  次に、原告が取得した神戸市長田区駒ケ林町三丁目七九番地の家屋について支払つた購入手数料一〇〇、〇〇〇円及び測量費一一、五〇〇円合計一一一、五〇〇円は、右建物の取得価額とみるべきものであるから、経費計上を否認して所得金額に加算すべきこと並びに青色申告書提出の承認の取消に伴い繰越欠損金二二七、九六七円を所得金額に加算すべきことは当事者間に争いがない。

(三)  したがつて、被告主張の所得金額の各加算は相当であつて、本件更正には違法はないといわなければならない。

三  以上の次第で、本件更正は他にこれを取消すべき瑕疵も認められないから、その取消を求める原告の本訴請求は理由がないものとしてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 仲西二郎 裁判官 神保修蔵 裁判官 小山邦和)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例